バフェット太郎です。

15日付の日本経済新聞に『逆風下 エクソン底堅く』との記事。未曽有の原油安の中、石油メジャー最大手、米エクソン・モービル(XOM)の業績の底堅さが目立っているとのこと。

XOMはリー・レイモンド前CEOの時代から、リスク低減を追求する「規律」を重んじており、原油価格が急落する前から投資を絞り込んでいました。例えば2014年7月、XOMはベルギー・アントワープにある製油所を20億ドルで買収しました。そもそも石油事業は主に上流部門(探鉱・生産)、中流部門(輸送)、下流部門(精製・販売)の三つにわかれており、原油高のときは上流部門が利益を上げられやすく、反対に原油安のときは下流部門が利益を上げやすいです。

さて、2014年7月に買収したベルギー・アントワープにある製油所は下流部門(精製・販売)にあたるわけですが、当時原油価格が1バレル100ドルを超えていたことから、投資家やアナリストから儲からない下流部門への投資に疑問の声があがりました。

原油高局面において、英BPや英蘭ロイヤルダッチ・シェルが製油所を閉鎖・売却し、コノコフィリップス(COP)は下流部門をスピンオフ(分離・独立)して上流に特化していました。XOMの下流部門はそうした時代の流れとも逆行していたわけですから、投資家やアナリストから批判的な声も少なくなかったです。

しかし、結果的にこれが功を奏しました。原油価格が大暴落する一方でガソリンなどの石油製品の下落は限定的だったため、下流部門の利益率が大幅に拡大したのです。また、XOMには「OIMS(操業管理システム)」というリスク低減のための独自管理システムがあります。これは期待される行動をきめ細かく規定し達成度を科学的に管理することで組織の「規律」を高める手法で、主にXOMの投資活動で活躍しました。

例えば、原油高だった2014年に競合企業のシェブロン(CVX)などが高水準の投資を維持する中、XOMは約3000億円減額する投資方針を発表しました。上流部門でコスト増により収益率が鈍っていたためです。2012~2013年の間も各社が上流部門で投資を20%前後増やす中、エクソンは1ケタ増に抑え、投資の中身も化学など下流部門に分散していました。その結果、各社が原油価格急落の中で減損処理に追われているなか、XOMだけ案件が限定的で底堅い収益になっています。

米ジェファーソン・リサーチは「エクソンのバランスシートは最強」と高い評価を下し、また、競合企業が相次いで格下げされているなか、XOMは90年にわたり最上級の格付けを維持しています。バフェットの「潮が引いたとき誰が裸で泳いでいるかわかる」という言葉は有名ですが、今回の原油安で、まさにその教訓が生きたというわけです。
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XOMについては『石油の帝国---エクソンモービルとアメリカのスーパーパワー 』が出版されていますのでXOMホルダーに限らず、石油株に投資している投資家にとって必読の本です。本書はレイモンドの時代からレックス・ティラーソン現CEOの時代について詳細に書かれています。

例えばレイモンド前CEOはリスク低減のため原油価格の予測をすることよりもエネルギー需要を予測することに力を入れるようになったエピソードがあります。

2000年、レイモンドは部下に1980年の時点で2000年についてどのように予測されていたのかを尋ねました。XOMは1940年代ごろからのエネルギー需要と石油価格について20年予測が所蔵されていたのです。そしてその資料によれば、石油価格の見通しについて大きく外した一方、エネルギー消費量の見通しについては、わずか1%の誤差で正確に予想していました。

原油価格の見通しを大きく外した理由は主に二つあります。一つは新たな油層の発見を助ける技術革新を軽視しすぎていたこと。もう一つは地政学的な変化が石油価格に及ぼす影響が非常に大きいため、需要と供給の均衡のみに依拠した通常の価格見通しは現実的ではないということが挙げられます。

短期の価格予測はできないことを前提にどうやってビジネスをすすめていくかについて、レイモンドは部下に「堅実でムラなく管理すること、そしてファンダメンタルを正しく保つようにすることだ」と答えました。つまり「規律を重んじて堅実な経営をするべきだ」ということです。

こうした投資姿勢はぼくたち投資家も見習うべきだと思います。相場に勢いがあるときはグロース株ばかりが目立ちますが、長期で見た場合、バリュー株にもしっかり分散投資しておくことでリスクを低減しなければなりません。また、楽観的な見通しから、過度な集中投資も控えるべきでしょう。

まわりを見渡せば、原油高のときに積極的にエネルギー株を買いにいった投資家や、楽観的な見通しからわずか一銘柄に集中投資した投資家、FANGなどのグロース株ばかりに投資して短期的な値上がり益に悦に入た投資家が凍死家になっていることがわかります。つまり彼らは裸で泳いでいたというわけです。

ぼくたちは彼らを笑い者にするのではなく、明日は我が身と「規律」を重んじ、リスク低減したポートフォリオで資産運用をするべきです。


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